プロダクトデザイン
その経験を活かし、2012年に「PDC DESIGNWORKS」を設立。カーデザインを軸とした工業デザインをはじめ、ミニ四駆、RCカー、各種ガジェット、ファッション分野のデザイン、コンサルティングなど、幅広い領域で活動している。また、企業や学生を対象としたデザイン教育にも取り組み、多様な趣味と幅広い視野をものづくりに反映。「人々を笑顔に」をテーマに、領域にとらわれないデザイン活動を展開している。
RCシリーズは
ORECデザインの理想形のひとつ
ORECが創業70周年を迎えた2018年以来、デザインディレクターとしてOREC製品のすべてのラインアップのデザインを手がけるのが、プロダクトデザイナーのやまざきたかゆきさんです。「いいデザインよりも、ふさわしいデザイン」と語るやまざきさんは、常に社内の設計者と密に連携を取りながら、ORECのブランドを担う一員として製品開発に取り組んでいただいています。ラジコンモアーシリーズ(RC MOWER 、以下RCシリーズ)をはじめとするOREC製品のデザインコンセプトや、農機をデザインする上でのこだわりについてお話しいただきました。
頼れる相棒としての農機のデザイン
ORECとの仕事は、70周年時に発表した「ラビットモアー(RABBIT MOWER、以下RM)」のコンセプトモデルのデザインが最初で、今年で8年目になります。当時はちょうどORECのリブランディングのタイミングで、ロゴデザインなどと合わせて製品も統一感のあるものにするために、農機のデザイナーとして依頼を受けたのがきっかけでした。
OREC製品のデザインは、基本的にはRMの時に構築したデザインプロセスを一貫して守っており、誰がどう見てもOREC製品だということがわかるように、ルールに則ってデザインをしています。なので、RCシリーズにおいても別段変わったことはしていないのですが、このシリーズは他のORECの製品ラインアップとは異なり、人の手を離れて単独で動く農機のため、製品の形を考える上では単体で完結させることを意識しています。
これまでの製品では、基本的には作業者が乗ったり、ハンドルを持って操作したりすることを前提に形を描いています。それはもともとプロダクトデザイナーとして独立するまでの18年間、ホンダでバイクをデザインしていた時代に叩き込まれていた考え方でもありました。バイクのデザイナーは、乗っている人が被るヘルメットや服装はもちろん、バイクに乗るシチュエーションや場所も考えた上で形をデザインしていて、たとえばオフロードバイクなら山の中で走る時のかっこよさを考えますし、スクーターならスーパーに駐車した時のスタイリッシュさや可愛さ、小綺麗さなどを考えた上でデザインしています。それは農機においても同様であり、これまでの製品では農家さんが使う姿や場所を考えながら、ハンドルの角度やカバーの色、面積などを検討していました。RCシリーズにおいては、農機としての便利さが感じられるのはもちろん、圃場にある姿がかっこいい、製品一台でまるっと完結するような形を考えてデザインしています。
2018年の時点で、僕の頭の中ではいつか農機のラジコン化や自動化が進み、草刈機が勝手に走っていくような時代が来るだろうと思っていたんです。その時、たとえば肉食の猛獣のような形の農機をデザインしたら、それが勝手に走り出したらおっかないですよね。かつての農作業は馬やロバといった、どちらかというとのんびりとした動物が手伝っていたので、地道にちゃんと仕事をしてくれるような、農家さんの相棒となるものをつくりたいなと思ったんです。それは農家さんと共に歩んできたORECの姿勢でもありますし、ブランドのキャラクターに合っているのではないかと。
僕はもともと長野出身なので、田舎で食べる梨の美味しさを知っていますし、「草と共に生きる」というORECのブランドコンセプトへの共感もあります。デザインに取りかかる上では、実際に農家さんのところにも伺ったのですが、自分たちが育てた果物や野菜のことを得意げに話している農家さんたちの姿を見ていると、こういった方々の一員になる農機としては、相棒としての頼り甲斐を感じさせながらも、一歩引いた存在感のあるデザインがふさわしいのではないかと考えました。
ようやくラジコン操作ができる機種の量産が可能な時代になり、これまでORECの設計の方々と一緒にやってきた中でも、RCシリーズは理想形のひとつと呼べる製品になったのではないかと思っています。
OREC製品を貫くデザインコンセプト「優しい四角」
僕は普段から、「いいデザイン」よりも「ふさわしいデザイン」を考えるようにしています。たとえば5つのデザイン案を考えるとしたら、それらはすべて「いいデザイン」として完成しているのは当然で、それよりも、クライアントが求めている市場においてふさわしいデザインとはなにかを考え、生産性やコストについても協議しながら、一緒にチューニングしていくことの方が重要だと思います。
コンセプトモデルのデザインを考えていた時、ゆくゆくはORECのラインアップ全体を任されることがすでに決まっていたので、ORECのさまざまな種類の農機を統一感を持ってデザインしていくために、「優しい四角」というコンセプトを掲げました。四角は製造時にもっとも効率的な形で、なるべく安くつくろうと思えば、すべて板金で直角に曲げて、最適なものを最小限つくればいい。そもそもこういった農機などの工業製品はデザインできる余地が少なく、デザイナーがいじることができる部分と言えば、カバーや熱よけといった部品ぐらいで、工程の中にデザインが入らないことの方が多いんです。
ただ、同じ板金をするにしても、ピンと曲げるよりも、少しアールをつけた方が見た目はよくなりますし、四角の一辺を丸くするだけで、柔らかくスタイリッシュな印象になります。基本的に僕はデザインのためにコストをかけることは絶対にしたくないのですが、性能とコストを変えずにできることがあるなら、できるだけやった方がいいと思うんですね。なので、板金でできる範疇のシンプルな要件で、デザインのロジックや形状のイメージを取り入れることができれば、OREC製品ならではの作法の中で「らしさ」を紡いでいけるのではないかと考えました。
RCシリーズのデザインの特徴としては、フロントの部分やロータリーカバーの形状に丸みを持たせているところで、農作物や樹木を傷つけずに、いなしながら前に進んでいくような優しい印象に仕上げているところですね。同時に、クローラーなどの形状は、 メカ好きとしては満点をつけたくなるほどのかっこよさがあります。ロールゲージの太さはややオーバーにして、タンクに関しては給油のしやすさと同時に形状のアクセントとなる位置を探るなど、バランスも見ながら全体を調整しています。アニメに出てくるロボットっぽい感じもあり、「やってみたい!」とお子さんが喜んでいる農家さんもいるんじゃないかな。
ORECの一員として、デザインの領域を広げていきたい
ORECの本社には毎月来ているんですが、開発期間中はかならず試作機を使うようにしており、それはRCシリーズも同様でした。やっぱり男の子的な感覚としては実際に使ってみたくなるし、ラジコンも動かしてみたくなる。僕自身、普段から機械をバラすこともありますし、製造時の前提となる設計上の都合やメカの部分がわかるので、どうすれば改善できるのかを肌感覚で掴むことができていると思います。ORECは社内に工場があり、設計から製造、出荷にいたるまでの一貫体制が整っているため、設計者とその場で検証しながら一緒に考えていける醍醐味がありますね。
ORECの設計者は、自分で溶接したり鉄板を曲げたりして試作が出来る方々ばかりで、本社に来る度に新しい試作機があって驚かされます。そのどれもが迫力があり 、ものすごくかっこいい。「もうできちゃったんですけど、デザインはどうしたらいいですか?」といった無茶振りも多いんですけど(笑)、デザイナーとしての瞬発力が鍛えられますし、一緒にメカをつくっている感覚があってとにかく楽しいです。そういった設計者とのやりとりはもちろん、社長や専務、さらには農家さんとの対話も重ねてきたので、みなさんの期待にきちんと応えるためのデザインをずっと探している感じですね。
まだまだ世の中の農機の多くがデザインは二の次で、性能がよくてコストを抑えられればそれでいいという方は多いと思います。ただ、こうやって製品のデザインを整えて、ラインアップとしての統一感をつくっていけば、いつかデザインの魅力に気づいてくれる人が増えていくはず。それに、遠目から見てもORECの製品だとわかるような製品をデザインすることは、社内の設計者にバトンを渡すことにもなると思うんです。見た目から生まれる効果と、実際に製品を使った時に感じられる、品質の高さへの信頼感との相乗効果が生まれるのであれば、デザインはあった方がいい。
この仕事は、ORECのすべての製品ラインアップを見られる面白さがありますし、これだけ大きな規模の会社のデザインディレクターをさせてもらえるからこその達成感もあります。今後は、これまで以上に農家さんの生活に寄り添えるものをORECでデザインできるといいですね。農業は高齢化の問題を抱えていますし、RCシリーズを使って草刈りが楽になったという農家さんはたくさんいるとは思います。ORECが扱う食と農の価値は、人間にとって最も直感的に響くものですし、この領域はもっと広げていけると思うので、今後もORECの一員のつもりでデザインを続けていきたいと思います。
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